岐路に立つ模擬裁判 顧問 小暮 得雄

第一回模擬裁判の様子
 落としもまた恒例の大学祭シーズンを迎えた。法学部系大学の呼びものといえば衆目の認めるところ、模擬裁判である。大学祭は“恒例”と言ってよいが、模擬裁判の方は本学第一期生が満を持して立ち上げて以降であるから、決して恒例というわけではない。伝統のない新設の大学にとって、脚本の選定や“司法考証”に始まる模擬裁判の旗揚げがどんなに難しい課題であるかは、大方の想像を超えるだろう。昨年度のパンフレットがあえて“継続は力なり”を訴えた背景にも、その辺の事情があった。ともかくも模擬裁という難事業を、途絶えることなく四回目まで継続できたことを慶び、学生諸君も健闘をねぎらいたいと思う。  昨年度に引き続き、今回の模擬裁も<裁判員制>をテーマに掲げた。いうまでもなく現在進行中の司法改革は、法科大学院の創設と並んで、一定範囲の刑事事件について、裁判員制度を導入することを大きな柱としている。<裁判員制>とは、一般国民が職業裁判官とともに審理に参加する方式で“お上の裁判”から脱却し、司法に民主的基盤を与える骨太の改革の一環に他ならない。この制度の導入は決まっているが、今後の法案提出に向けて細部はなお検討中である。したがって、学生諸君がこの制度にどんな肉付けを与え、どんな運用をはかるかは、いわば改革への“センス”を示すという意味で、今回の模擬裁判の大きな見どころといえよう。とりわけ重要なのはプロの裁判官と裁判員の比率という問題である。世の中には、一見些細な技術的問題のように見えて、その実ことがら本質に深くかかわっているたぐいの問題が少なくないが、裁判官と裁判員の割合という問題も、裁判員制度の根幹にかかわる重要な問題に属している。舞台の構造的な制約もさることながら、裁判員の数によって、裁判の雰囲気や展開が大きく左右されることを実感してほしい。  本学の模擬裁判は、発足以来、その凝った脚本や演出で評判を呼ぶ一方、裁判方式の面では、いわゆる参審制からさらにはその延長線上にある裁判員制を採用し、いわば市民の司法参加という方向を一貫してとり続けてきた。“戦後最大の改革”といわれる改革の動向に照らすとき、本学の辿った方向は、まさに時代を“先取り”するもので、顧みて大英断だったといってよいであろう。けれども、“法の支配”の理念のもと、裁判には当然のことながら民事裁判や行政裁判、あるいは国際裁判など、より多様な種類、より多彩な方式がある。いたずらに先輩たちが踏み固めた道を踏襲するのではなく、そろそろ、全学的な英知を傾けて、模擬裁判の“創造的な発展”をはかるべき時期が到来しているのではないだろうか?  その辺の課題を今後に残しながらも、とりあえず、今回は、裁判員制による刑事裁判が展開される。ご来場の皆様方の前で、今日繰り展げられた刑事裁判の進行が、遠からず現実となる筈である。学生諸君の熱演した裁判像は、皆様方の眼にどう映っただろうか。
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